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東京家庭裁判所 昭和63年(少ハ)20号 決定

少年 S・R(昭43.11.16生)

主文

少年を、満21歳に達するまで、中等少年院に戻して収容する。

理由

(申請の理由の要旨)

少年は、昭和60年10月11日に当庁においてぐ犯保護事件で医療少年院送致の決定を受け、同62年1月20日に多摩少年院を仮退院し、以来東京保護観察所の保護観察下にある者であるが、仮退院に際し、犯罪者予防更生法34条2項所定のいわゆる一般遵守事項及び同法31条3項の規定に基づき中部地方更生保護委員会が定めた特別遵守事項、すなわち、「人のものに手を出さないこと」(同3号)、「遊んでばかりいないでまじめに働くこと」(同4号)、「○○園の規則をよく守り、先生がたの指導に従うこと」(同5号)の遵守を誓約した。

しかるに、少年は、

1  昭和63年2月8日、同年4月5日、同13日、同月30日、同年5月18日及び同年7月12日、それぞれ、パチンコやゲームなどをして遊んでいたため、午後10時の門限を過ぎて、深夜帰会し、もって、○○園の規則を守らなかった

2  同年3月11日ころ、○○園内の隣室において、同室の在会者Aの机の上にあった財布を窃取しようとしたが、同人に発見されてその目的を遂げなかった

3  同年4月29日、同5月2日、同月27日及び同年7月18日、それぞれ、予め、保護観察を行う者の許可を求めることなく、○○園から出たまま外泊した

4  同年7月25日、東京都新宿区○○町××所在の○○製本所において、同僚のBの給料14万3070円を同人から預り保管中これを横領した

5  同年7月25日から同年8月11日までの間、東京都渋谷区代々木上原駅付近の○○マンション屋上踊り場で宿泊まりしたり、都内足立区○○の公園で野宿したりし、もって、一定の住居に居住せず、かつ、この間、パチンコをしたりなど、定職に就かず、無為徒食の生活をした

ものであり、1の行為は前記特別遵守事項5号に、2及び4の各行為は一般遵守事項2号「善行を保持すること」及び前記特別遵守事項3号に、3の行為は一般遵守事項4号「住居を転じ、又は長期の旅行をするときは、予め、保護観察を行う者の許可を求めること」に、5の行為は一般遵守事項1号「一定の住居に居住し、正業に従事すること」及び特別遵守事項4号に、それぞれ違反している。

以上のとおり、少年は遵守事項違反を繰り返し、仮退院後の行状、保護者の保護能力、その他諸般の情状を考慮すると、現状においては保護観察による処遇は極めて困難であり、この際、少年を少年院に戻して収容することが相当である。

(当裁判所の判断)

本件少年保護事件記録、少年調査記録及び当審判廷における少年の陳述によれば、申請の理由の要旨記載の事実のほか、次の事実が認められる。

少年は、昭和60年10月11日当庁においてぐ犯保護事件で医療少年院送致の決定を受け、宮川医療少年院に収容された後、同62年1月28日に移送先の多摩少年院を仮退院し、同日から更生保護会の○○園に帰住し、貸おしぼり業「○○商会」に就職稼働するようになったものの、同年5月から翌63年1月までの間に、上記した本件遵守事項違反行為と同種の違反行為を反覆したことを理由に同年1月19日、前件の戻し収容申請(当庁同年少ハ第3号事件)を受けたが、二度にわたる少年院での矯正教育により基本的な生活習慣が一応身に付きつつあること、少年の上記就業先の稼働状況は必ずしも芳しいものではないものの、勤労意欲は見られ、雇主も少年を雇用してゆきたい意向を示していること、少年の将来の自立という観点からすると、少年院での収容教育のみでは不十分で、むしろ実社会の中での労働を通じて社会生活への適応を図っていくことが重要であること等の事情が斟酌されて上記戻し収容申請は却下された(詳しくは前件審判書を参照されたい)。そこで、少年は再び○○園に帰住し、上記就業先で稼働するようになったが、しかし、勤務状況不良で同年5月末ころ解雇され、次いで、製本会社に就職したが、能力的に仕事についてゆけず、叱責を受けることも多く、したがって出勤拒否の気持ちが強くなる一方、パチンコなどの遊興への逃避傾向を強めていったところ、同年7月25日の給与支給日に偶々多額の現金を手にしたことから、上記4の遵守事項違反行為を敢行し、また、同5の違反行為に至った。

ところで、少年は、過去二回の少年院教育(合計約2年4か月に及ぶ)の効果により、一通りの学力の向上、生活の安定の兆しは見え始めているが、上記の仮退院後の経過からも明らかな如く、能力的な制約から、自らの問題点の自覚が生まれにくく、職業生活も持続できるまでに至っておらず、今後も窃盗などの非行を繰り返す虞れはあると言わざるを得ないが(但し、非行性は、矯正教育の効果等により減弱しつつあると思われる)、資質面の制約から少年院での矯正教育をさらに加えても早急には右の問題を解消し得る見込みに乏しく、少年の将来の自立と社会適応という観点からすると、少年院での生活よりも、むしろ、実社会の中での労働を経験させることにより、地道に社会生活への適応力の涵養を図っていくことの方が重要、適切であると思料される。しかしながら、(1)少年の度重なる遵守事項違反行為により上記更生保護会の○○園は少年の引取り保護に消極的であること、(2)保護観察所その他の関係機関の努力にもかかわらず、現在のところ○○園に代わるべき少年を受け入れる精神薄弱者施設その他の社会的福祉施設や、少年の能力にみあった少年の如き低知能者に理解のある職場を見い出し得ないこと、(3)少年の保護者である母親は、自己の生活維持に精一杯で、少年と同居することで自己の生活が破綻することを恐れて少年の引取り保護に消極的であること、(4)少年は間もなく成人に達し、保護処分としての矯正教育を受ける最後の機会となると思われることなどの諸事情を総合考慮すると、少年に対し、適切に生活指導や職業補導を実施して保護しうる社会資源が見い出し得ず、かつ、保護者に保護能力がない現状では、当面の再非行の防止と、将来の職業生活に向けての準備としての忍耐力、持続力の涵養の必要性の観点から、少年を少年院に戻して収容する以外、他に適切な方途はないものと言わざるを得ない。

以上の次第で、少年を中等少年院に戻して収容することとするが、上記した如く、少年の真の自立の観点からすると、社会資源を活用して実社会の中で勤労させることにより気長にその成長を待つしかないものと思料され、したがって、少年院においては、今後の円滑な職業生活へ結び付けるための必要最少限度の忍耐力、持続力の涵養を目指して矯正教育を施し、社会資源が整い次第1日も早く社会内処遇に移行し得るよう配慮すべきであり、また、このようなところから、収容による矯正教育期間を約半年、その後の社会内処遇期間を半年以上と見込んで、現在から約1年2か月後の少年が満21歳に達するまでを戻し収容期間とするのが相当である。

よって、犯罪者予防更生法43条1項、少年審判規則55条により、主文のとおり決定する。

(裁判官 千川原則雄)

〔参考1〕環境調整命令

少年の環境の調整に関する件

東京保護観察所 殿

昭和63年9月16日

東京家庭裁判所

裁判官 千川原則雄

本籍 東京都葛飾区○○×丁目××番地

住居 東京都中野区○○町×丁目×番×号○○園

職業 無職

S・R 昭和43年11月16日生

上記少年は、別添決定書謄本のとおり、昭和63年9月16日当庁において「少年を、満21歳に達するまで、中等少年院に戻して収容する。」との決定を受けた者であるが、同決定の理由にも記載したとおり、少年の更生にとって少年院における矯正教育に引き続くべき在宅処遇段階が重要な意味を持つことになると思料されますので、この在宅処遇が成功裡になされることを保障する条件を早期に準備すべく少年の環境の調整に関し下記のとおりの措置を行われるよう、少年法24条2項、少年審判規則39条により要請致します。

1 過去二回の少年院教育により、少年には一通りの学力の向上、生活の安定の兆しは見え始めているが、能力的な制約から、自らの問題点の自覚が生まれにくく、職業生活も持続できるまでに至っておらず、少年院での矯正教育をさらに加えても早急には右の問題点は解消し得る見込みに乏しく(この点で、少年は、少年法による保護の限界にあるといわねばならない)、少年の将来の自立と社会適応という観点からすると、少年にとって比較的居心地の良かった少年院での生活よりも、むしろ、実社会の中での労働を経験させることにより社会生活への適応を図っていくことが重要、適切であると思料され、したがって、少年を受け入れ得る精神薄弱者施設その他の社会的福祉施設と、少年の能力にみあった、少年の如き低知能者に理解のある職場を早急に用意し、一日も早く少年が仮退院しうる態勢をつくり、社会内処遇に移行できるよう尽力していただきたい。

2 少年の保護者である母親は、自己の生活を維持するのに精一杯で、少年と同居することにより自己の生活が破綻することを恐れて少年の引取り保護に消極的であるが、心底では少年の将来を安じ、少年の引き取りも考えている様子が窺われ、他方、少年も母親との同居を願っていることが窺われるので、将来における親子の同居に備える意味も含めて、母親に対し、可能な限り頻繁に少年との面会に赴いて少年を励ますことができるようにすることと、少年に対する指導監督のあり方について理解できるよう指導援助していただきたい。

なお、本職あての調査官からの調査報告書を充分に参照されたい。

〔参考2〕戻し収容申請書

関更審発第881号

戻し収容申請書

昭和63年8月26日

東京家庭裁判所  殿

関東地方更生保護委員会

下記の者は、少年院を仮退院後東京保護観察所において保護観察中の者であるが、少年院に戻して収容すべきものと認められるので、犯罪者予防更生法第43条第1項の規定により申請する。

氏名

年齢

S・R 昭和43年11月16日生

本籍

東京都葛飾区○○×-××

住居

東京都中野区○○町×-×-×○○園

(東京少年鑑別所留置中)

保護者

氏名

年齢

S・K子 昭和8年8月24日生

住居

東京都葛飾区○○×-×-××

本人の職業

無職

保護者の職業

掃除婦

決定裁判所

東京家庭裁判所

決定の日

昭和60年10月11日

仮退院許可委員会

中部地方更生保護委員会

許可決定の日

昭和62年1月7日

仮退院施設

多摩少年院

仮退院の日

昭和62年1月28日

保護観察の経過及び成績の推移

別紙「保護観察の経過及び成績の推移」のとおり。

申請の理由

別紙「申請の理由」のとおり。

必要とする収容期間

参考事項

添付書類

1 本人に対する質問調書謄本  2通

2 関係人に対する質問調書謄本 2通

3 関係人に対する面接票写し  1通

4 電話聴取書写し       1通

5 ○○園での生活の心得写し  1通

6 引致状謄本         1通

7 少年院仮退院許可決定書謄本 1通

なお、当委員会の審理開始決定に伴う留置期限は、昭和63年8月27日である。ただし、本申請により、昭和63年9月6日となる。

また、少年が、20歳に達するまでの期間は、1年に満たないので、20歳を越える後まで、施設に収容することが相当と思料します。

別記1

〈保護観察の経過及び成績の推移〉

(昭和63年1月12日までの保護観察の経過については、別紙のとおり。)

1 昭和63年2月5日東京家庭裁判所において戻し収容申請却下の決定を受け、財団法人東京保護観察協会○○園の補導主任、保護司Cの同伴を受けて当庁に出頭し、主任官から面接指導を受けた後、上記○○園に帰住した。

2 同月6日から、昭和63年1月11日まで稼動していた東京都中野区○○××-××-××○○商会でおしぼり洗い工として就労することとなった。本人を指導するに当たり、毎日一定額の小遣い銭を本人に渡して、本人がいたずらに浪費しないよう留意していた。

3 同月8日就労後帰寮途中、西武新宿線○○駅前のパチンコ店でパチンコに熱中して、門限に遅れ、22時30分頃に帰寮。補導職員から注意を受けた。

4 同年3月9日○○園のD補導員、本人の実母S・K子とともに中野区福祉事務所に赴き、本人の精神薄弱者救護施設への入所を進めるため、同事務所において入所手続きを行った。

5 同年3月15日C保護司から、本人が同月11日朝、○○園の隣室のAの部屋に侵入し、同人の机の上にあった財布から金を窃取しようとしたところをAに見つかった旨の報告を受けた。

同月11日に補導職員は本人に対し厳重に注意するとともに、翌12日〈1〉パチンコは平日にしない、日曜日にすること、〈2〉嘘をつかないこと、〈3〉絶対に人のものに手を付けないことを本人に誓約するよう指導した。更に、同月15日主任官が本人に対し面接指導を加えた。

6 同月31日から補導職員が本人に対し、本人が計画的に金銭を管理するように少遺い帳を付けるよう指導を行った。

7 同年4月5日就労後帰寮途中、西武新宿線高田馬場駅まで寄り道し、同駅前でテレビゲームに熱中して、門限に遅れ、22時30分頃に帰寮。補導職員から注意を受けた。

8 同月13日朝7時に○○園を出たが、職場に出勤せず、同日は西武線の電車に一日中乗った後、東京都葛飾区○○×-×-××母S・K子のもとに現れた後、母から電話連絡を受けた○○園補導職員の指導により、22時過ぎ帰寮した。補導職員から注意を受けた。

更に翌14日主任官が本人に対し面接指導を加えた。

9 同月22日本人の精神薄弱者救護施設への入所を進めるため、D補導員同件を受けて東京都心身障害者福祉センターにおいて心理判定を受けた。

10 同月29日朝7時40分に○○園を出たが、職場に出勤せず、無断外泊。翌30日足立区○○のパチンコ店で○○園から連絡を受けて本人を捜しにきた母に見付かり、母から電話連絡を受けた○○園補導職員の指導により、23時過ぎ帰寮した。補導職員から厳重に注意を受けた。

10 同年5月2日就労後退社したまま無断外泊。翌3日帰寮、パチンコをしていたことが判明。同日は無断欠勤。同月4日本人に補導職員同伴して、上記○○商会に本人の再雇用を依頼。翌6日から本人同商会に出勤。

11 同月18日朝○○園を出たが職場に出勤せず。補導職員の連絡を受けた母が本人を捜したところ、パチンコ店にいたので、母から連絡を受けた補導職員の指導により、22時過ぎ本人帰寮した。

12 同月23日主任官、D補導員と共に中野区福祉事務所に赴き、本人の精神薄弱者救護施設の入所見込みについて照会するも、見通しが立っていない旨の回答を得た。

13 同月27日朝、歯医者に治療費を払いたい等と申し述べたので、本人の保管金から2,000円を渡したところ、本人職場に出勤せず、無断外泊。翌28日本人から電話があったので、○○商会に謝るよう指導し、後刻補導職員も同商会に本人の再雇用を依頼したが、拒否され、本人は解雇された。

14 本人が協力雇用主のもとでの就労を希望したため、補導職員が同月30日協力雇用主の(株)○○製本所に本人の雇用を依頼したところ、同社で面接を受け、採用された。本人が同社に採用されるに当たり、同社で就労している○○園在園者のBと必ず一緒に通勤するよう指導した。

同年6月25日は同社の給料日であったので、補導職員は同社に本人の給料は本人に渡さず、同Bに渡し○○園まで持って帰らせて、本人の保管金に入れることを同社と申し合わせた。

15 同年7月12日朝○○園を出たが職場に出勤せず、補導職員の連絡を受けた母が本人を捜したところ、パチンコ店にいたので、母から連絡を受けた補導職員の指導により、22時過ぎ本人帰寮した。補導職員の指導を受けたが、本人は○○園在園者のEから6,500円を借りたので、パチンコで勝って返済しようとしたと申し述べた。補導職員の指導により、改めて〈1〉Bと一緒に通勤すること、〈2〉人から金を借りないこと及び〈3〉嘘をつかないことを誓約した。

16 同月18日朝、Bに遅れて○○園を出たが、職場に出勤せず、補導職員の連絡を受けた母が本人を捜したところ、パチンコ店にいたので、母から連絡を受けた補導職員が帰寮を指導したが、母のもとを出たまま同日無断外泊。翌19日帰寮。

同日主任官が面接指導を加え、厳重に注意した。

17 同月25日Bと共に帰寮途中、Bから本人とBの2人分の給料の入った袋を「持たせてくれ」と言って預かったまま、行方をくらました。翌26日補導職員が本人の行方を捜すも見つからず。

同日主任官、D補導員とともに中野区福祉事務所に赴き、本人の精神薄弱者救護施設の入所の見込みについて照会するも、見通しが立っていない旨の回答を得た。その後、警視庁○○警察署に赴き、同月25日の再非行について説明し、協力方を依頼した。

同月28日Bが警視庁○○警察署に被害届を出した。

18 同年8月12日に○○園に、母から本人を葛飾区○○のパチンコ店で見つけた旨の連絡が入ったので、帰寮を指導し、夕方本人帰寮した。Bの給料143,070円及び本人の給料を全てパチンコで費消した旨申し述べた。

19 同月16日Bを質問調査、関係人調書作成。

20 同月17日本人を質問調査した結果、遵守事項に違反し、かつ逃亡するおそれ濃厚と判断し、同日東京家庭裁判所裁判官に対し、引致状請求。同日その発付を受けた。

21 翌18日本人任意当庁に出頭したため、質問調査、引致状執行。同日関東地方更生保護委員会における審理開始決定を受け、本人の身柄を東京少年鑑別所に留置した。

(別紙)

保護観察の経過及び成績の推移

62.1.28 ○○園・主幹の出迎えを受けて宮川医療少年院を仮退院(宮川医療少年院から多摩少年院へ保護移送され、多摩少年院から出院)し、同日東京保護観察所(以下「当庁」という。)に出頭、手続きを履行の上、○○園(以下「同園」という。)に帰住。当庁の保護観察下に入る。

62.1.30 しもやけがひどいので、中野区役所へ行き、特別診察券の手続きをとり、通院する。

62.2.1 母親・S・K子宅(葛飾区○○×-×-××)へ行く。帰園しないため、同園職員が探しに行くが、見つからず。午前零時頃、母親から電話連絡があり、本人が帰って来たとのこと。

62.2.2 母親が本人を同園に連れて来る。中野区福祉事務所に行き、精神薄弱者福祉司と面接。

62.2.3~62.2.6 本人に同園指導員が同行し、求職活動を行うが、いずれも不採用。

62.2.12 貸おしぼり業、○○商会(中野区○○×-××-××)へ同園補導員が同行し、面接、見習いで採用となる。

62.2.13 初出勤。同園補導員が送迎。

62.3.1 母親宅へ遊びに行く。

62.3.6 給料日。53,200円をもらう。カセットデッキとテープを買いに行く。

62.3.8 母親宅に行き、ミュージックテープを2本買ってもらう。

62.3.9 知能検査。東京都発行の愛の手帳の交付を受ける。

62.4.5 母親宅へ行き、洋服をたくさん持って帰って来る。

62.4.6 給料日。同園補導員出迎える。

62.4.10 中野区から障害者福祉手当月額4,000円がもらえることになる。また、私営バス半額、都営交通無料の乗車券ももらう。

62.5.4~62.5.5 無断欠勤。「いつも一緒に行動している同園在園者F(24才)、G(20才)が祭日で休みなのに、自分は仕事に行かなければならない、つまらない。」との理由。

62.5.6 同園補導員が同行し、○○商会に行くが、2日間無断欠勤していたため解雇される。中野区役所へ行き、職業相談を受ける。本人は解雇されたことについて、ケロッとしている。

62.5.7 ○○商会より、本人がやめたことにより同僚の女子が仕事をしなくなり困るので、出勤するようにとの電話連絡があり、同園補導員が同行。本人は、何もなかったようにケロッとしている。帰って来てからも、「遊びたい。遊びたい。」と言っている。

62.5.10 母親宅へ遊びに行き、門限遅刻。

62.6.4 「ティッシュペーパーを買いに行く。」と言って外出したまま無断外泊。

62.6.10 ゲームセンターで遊んで門限遅刻。

62.6.16 前記Fと外出した時、同園在園者H(18才)が追って来て、本人を裏の公園に連れて行き、顔を殴ったり、腹をけったり、つばを吐きかけたりする。また、同園の中でも、ベッドに倒したり、けったりする(本人述)。

62.6.28 母親宅へ行き、ゲーム、パチンコに夢中になり翌日午前3時15分帰園。

62.6.29 同園補導員が同行して、本人当庁に出頭。主任官(代理)がゲーム、パチンコを慎しみ、門限を守るよう面接指導。

62.7.1 夕食後、外出しパチンコに夢中になり、門限遅刻。午後11時10分帰園。しばらく外出禁止。

62.7.5 母親宅へ行き、門限遅刻。

62.7.14 外出禁止を解除。

62.7.17 主任官(代理)駐在面接し、門限遅刻、無断外泊を注意。

62.8.6 国民健康保険に加入。

62.8.7 中野区より障害者福祉手当4ヵ月分1万6千円支給される。

62.10.25~62.10.26 会社の慰安旅行で甲府へ行く。

62.11.3 「お母さんの所に帰りたいが、部屋が狭いので一緒に住めないので、自分で金を貯めて部屋を借りたい。」と言う。同園職員が激励。

62.11.4 同園在園者I(16才)に誘い出され、同園近くのコインランドリーで同園を退会した前記H、J(18才)に会い、Hから「おめえは、おれの金をとったから30万円都合をつけろ。お母さんの所へ行けば都合つくだろ。」と言われて、母親の所へ本人、H、Jの3人で行く。母親が110番通報し、○○警察署へ行く。

62.11.6 仕事に出勤したまま、10日まで無断外泊。事後の調査では、6日仕事を終えて給料を受け取り、西武新宿線○○駅まで来て、駅前のパチンコ店に入り、パチンコをし、以後昼間はパチンコをして過ごし、夜は公園等で野宿し、所持金を使い果たして母親宅へ行き、10日に同園に帰園していることが明らかになっている。

62.11.10 本人が帰園後、同園補導員が同行して本人の仕事先○○商会に行き、無断欠勤をあやまり、引き続き雇ってくれることとなり、本人は二度と無断欠勤しないため丸坊主頭になって反省。

62.11.12 主任官駐在面接し、無断外泊を厳重注意。

62.11.18 パチンコをしていて門限遅刻。

62.11.20 個室から、前記Gと同室(和室A)に移る。

62.11.24 主任官駐在時に、同園補導員に同行してもらい、中野区福祉事務所を訪問。精神薄弱者福祉司から、東京都の精神薄弱者通勤寮について説明を受ける。

62.11.26 前記東京都の精神薄弱者通勤寮への入寮手続きをとる。

63.1.8 入寮検査の予定。

62.12.3 主任官駐在時に、仕事を終えたら、一度帰園してから外出し、門限までに帰園するよう面接指導。

62.12.7 同園補導員が会社に出向き、本人の給料を受け取る。今後は、給料を銀行振込みにするよう会社と話し合う。

62.12.13 母親宅へ遊びに行き、門限遅刻。翌日午前1時帰園。

62.12.14 主任官駐在面接時に、前日の門限破りを注意。

62.12.27 休日出勤のところ、無断欠勤し、母親宅へ遊びに行く。

62.12.31 事後の調査によると、この日午前9時20分頃、同室の前記Gのロッカーのジャンパーの内ポケットから現金2万円を窃取している。

63.1.3 午前9時頃、「浅草へ遊びに行きます。」と言って外出したまま、8日まで無断外泊。事後の調査によると、3日は浅草で遊び、夕方母親宅へ行き約1,000円をもらい、母親宅を出てから、パチンコをし、翌日から昼間は、パチンコ等をして過ごし、夜は公園等で野宿し、所持金を使い果たし、7日夕方母親宅に戻り、翌日母親と一緒に仕事先の○○商会に行き、無断欠勤をあやまり、仕事をして、○○園に帰園している。

63.1.4 事後の調査によると、この日午前1時20分頃、仕事先の○○商会の事務所の裏口から事務所の中に侵入し、会社部長の机の引出しの中の白い封筒から現金3万8千550円を窃取している。

63.1.7 本人の所在不明について事故報告書受理。

63.1.10 同園補導主任の質問に対して、同室のGの現金を窃取したこと及び会社事務所に侵入し現金を窃取したことを認める。

63.1.11 前記について、同園補導主任から電話報告受理。

63.1.12 引致状請求。引致、留置の上、現在東京少年鑑別所に留置中である。

以上のとおり、本人は、仮退院後おしぼり洗い作業員としておおむね真面目に就労し、貯蓄に努めてはいるものの、昭和62年6月からはゲームやパチンコをするようになり同園の門限を度々破るようになった。同年8月から同年10月にかけて一時落ち着いたものの、同年11月からは、再びパチンコ、ゲームをして、門限破り、無断外泊をするようになり、最近に至っては、遊ぶ金欲しさに2度にわたって現金窃取を敢行する問題行動をとっており、保護観察の成績は不良である。

(別紙)

申請の理由

少年は、中部地方更生保護委員会の決定により、その仮退院期間を昭和63年11月15日までとして、昭和62年1月28日多摩少年院からの仮退院を許され、以来、東京保護観察所の保護観察下にあるものである。

少年は、仮退院に際して、犯罪者予防更生法第34条第2項に定める事項(以下「一般遵守事項」という。)及び同法第31条第3項の規定に基づき中部地方更生保護委員会が定めた事項(以下「特別遵守事項」という。)の遵守を誓約したものであるが、昭和63年8月18日付けで、東京保護観察所長から戻し収容の申出がなされたので、関係書類を精査して検討した結果、下記1記載のとおり、遵守すべき事項を遵守していない事実が認められ、かつ、下記2記載のとおり、さらに、保護観察を継続しても、その改善更生を図ることは著しく困難な状況にあると認められるので、本件申請を行うものである。

1 遵守事項違反の事実

少年は、

(1) 昭和63年2月8日、同年4月5日、同月13日、同月30日、同年5月18日及び同年7月12日、それぞれ、パチンコやゲームなどをして遊んでいたため、午後10時の門限を過ぎて、深夜帰会し、もって、○○園の規則を守らなかった

(2) 昭和63年3月11日ころ、表記更生保護会内の隣室において、同室の在会者Aの机の上にあった財布を窃取しようとしたが、同人に発見されてその目的を遂げなかった

(3) 昭和63年4月29日、同年5月2日、同月27日及び同年7月18日、それぞれ、あらかじめ、保護観察を行う者の許可を求めることなく、表記更生保護会から出たまま、外泊をしていた

(4) 昭和63年7月25日、東京都新宿区○○町××に所在の○○製本所において、同僚のBの給料14万3,070円を同人から預かり保管中に横領した

(5) 昭和63年7月25日から同年8月11日までの間、東京都渋谷区内代々木上原駅付近の○○マンション屋上踊り場で寝泊まりしたり、都内足立区○○の公園で野宿したりして、もって、一定の住居に居住せず、かつ、この間パチンコをしたり、飲み食いをして過ごすなど定職に就いて働くことをせず、徒食生活をした

ものである。

上記(1)の事実は、特別遵守事項第5号「○○園の規則をよく守り、先生がたの指導に従うこと」に、上記(2)及び(4)の事実は、一般遵守事項第2号「善行を保持すること」及び特別遵守事項第3号「人のものに手を出さないこと」に、上記(3)の事実は、一般遵守事項第4号「住居を転じ、又は長期の旅行をするときは、あらかじめ、保護観察を行う者の許可を求めること」に、上記(5)の事実は、一般遵守事項第1号「一定の住居に居住し、正業に従事すること。」及び特別遵守事項第4号「遊んでばかりいないでまじめに働くこと。」に、それぞれ違反する。

2 戻し収容を必要とする理由

(1) 昭和63年1月19日付け戻し収容申請書参照のほか、

少年は、昭和63年2月5日、東京家庭裁判所において、戻し収容申請棄却決定を受けた後、表記更生保護会に帰住し、前職場の○○商会に復職して働いていたが、まもなく、前回同様仕事の帰りに、パチンコ店に寄って、パチンコに熱中するようになり、それが、次第に長時間に及ぶようになって、度々門限に遅れたり、無断外泊をしたりする間に、無断欠勤が続き、同年5月28日前記○○商会から解雇された。その後、○○製本所に就職し稼働していたが、昭和63年7月25日には給料の支給を受け、同僚の給料をも預かりこれを横領して前記1の(5)のとおり、前回同様、パチンコに耽り、浮浪・徒遊の生活を繰り返していたものであり、その非行傾向は、一向に改善されない。

(2) 東京保護観察所においては、職場に定着させ、無断欠勤、無断外泊等をしないよう留意し、さらに、少年が計画的に金銭を管理するように小遣い帳を付けるよう指導するとともに毎日一定額の小遣いを少年に渡して浪費しないように留意して指導を続けた。少年を収容していた更生保護会の職員は、日夜、少年の動静を見守りながら、指導を加え、担当の保護観察官も少年がパチンコに耽ったり無断外泊する度に直接少年に面接して生活の指導を行った。しかし、少年の行状は、改まることなく、さらに、他人の給料を横領してそれをパチンコに興じて費やすなど、益々非行の度を強めている。

(3) 母は、相変わらず、少年の引受けに消極的であり、再び養育する意思が無く、保護者として、少年の監護に当たることは、全く期待できない状態にある。また、表記更生保護会においては、前述のとおり、根気よく指導を加えたが、少年の度重なる規則違反や同更生保護会内での窃盗未遂事件、さらに、同更生保護会在会者からの横領事件を引き起こすに至って、少年の指導に自信を失い、これ以上の保護はできない状態にある。

以上のとおり、少年に対する保護観察の実施状況、遵守事項違反の程度・態様及び保護者の保護能力等から検討すると、保護観察による処遇は極めて困難であり、この際、少年を少年院に戻して収容し、再び矯正教育を実施することにより、堅実な生活習慣を身に付けさせることが、最も適切な措置であると思料する。

〔参考3〕 前件の戻し収容申請却下決定(東京家 昭63(少ハ)3号 昭63.2.5決定)

主文

本件申請を却下する。

理由

(申請理由の要旨)

少年は、昭和60年10月11日に当庁においてぐ犯保護事件により医療少年院送致の決定を受け、宮川医療少年院に収容されたのち、同62年1月28日に移送先の多摩少年院を仮退院し、以来、東京保護観察所の保護観察に付されており、特別遵守事項として「財団法人東京保護観察協会の○○園に帰住すること」「同園の規則をよく守り先生方の指導に従うこと」「人の物に手を出さないこと」等が定められているものであるが

第1 昭和62年5月上旬ころから同63年1月12日ころまでの間、約10回にわたり、パチンコやゲームに興じて遊んでいたために○○園の門限である午後10時を過ぎて帰宅し、同園の規則を守らなかった

第2 同62年11月6日から同月9日までの間、同年12月31日、同63年1月3日から同月7日までの間、予め保護観察を行う者の許可を求めることなく外泊をした

第3 同62年12月31日ころ、肩書住居地の○○園内において、G所有の現金2万円を窃取した

第4 同63年1月4日ころ、東京都中野区○○×丁目××番××号所在の○○商会事務所において、同商会管理の現金3万8550円を窃取した

ものであって、以上の行為は特別遵守事項及び一般遵守事項にそれぞれ違反したものであり、少年をこのまま放置すれば、今後も同種の非行や違反を繰り返すおそれが強い状況にある。したがって、少年を少年院に戻して収容し、再び矯正教育を実施することにより、堅実な生活習慣を身に付けさせることが最も適切な措置であると思料する。

(当裁判所の判断)

本件の準少年保護事件記録、少年調査記録並びに当審判廷における少年の供述によれば、上記申請理由の要旨記載の各事実を認めることができる。

そこで、本件申請を認容すべきか否かについて検討すると、一件記録によって認められる以下の事実、すなわち、〈1〉少年は、昭和59年8月10日に当庁においてぐ犯保護事件により初等少年院送致の決定を受けたところ、鑑別の結果軽度の精神薄弱と認められたことから神奈川医療少年院に入院となり、同60年9月12日に同院を仮退院したが、仮退院後間もなく祖父宅に侵入して多額の現金を窃取するなどの放縦な生活関係を繰り返したために、同年10月11日に当庁において再びぐ犯保護事件により医療少年院送致の決定を受けることとなった。ところで、少年の院内生活についてみると、能力面での非力さもあって強い在院者に追従して上手に世渡りをするという感じがあり調子づくとけじめがなくなる点はみられたが、表面的な対人関係は一応うまくやってきており、院内生活にもなじんでいたことが認められ、二度にわたる収容教育により基本的な生活習慣は一応身に付きつつあるとみられること、〈2〉少年は、昭和62年1月28日に移送先の多摩少年院を仮退院して同日から前記○○園に帰住し、同年2月12日から東京都中野区○○所在の貸おしぼり業「○○商会」において稼働するようになり、以後無断欠勤などが時々あったものの、○○園の職員の指導によりなんとか勤務を続けており、今回現金盗が発覚したものの、○○商会の経営者は今後とも少年を雇用してゆきたい意向を示していること〈3〉少年の実母は、現在掃除婦として1人で生活をしており、少年の引取りについては終始消極的ではあるが、将来は親としての責任をはたすべく少年の引取りを考えている様子も窺われるものであって、そのためには、少年が休日等に自由に母親と面会ができる環境を作っておく必要が認められること(少年の今後の処遇については、精神薄弱者施設での引取りも考えられなくはないが、同施設の入所にしては、能力的に高いことから同施設での引取りも困難が予想され、結局少年の自立にとっては母親の援助が不可欠である。)、〈4〉少年は、今回の戻し収容申請につき身柄を拘束された意味は一応理解しており、反省の態度と同時に今後も許されるなら前記の「○○商会」において働いていきたいとの意欲を有していることなど諸般の事情を総合考慮すると、少年が今後窃盗などの非行を繰り返すおそれはないとは断言できないけれども、○○園の職員の地道な努力と善導により社会性を身に付けさせてゆくことが期待できる(再非行防止の観点からは収容処遇が妥当かも知れないが、将来の自立という観点からすると、少年にとって比較的居心地の良かった少年院での収容教育のみでは不十分であって、むしろ実社会の中での労働を経験させることにより金銭の使い方などを覚えさせて社会生活への適応を図っていくことが重要である)ので、現時点では戻し収容の必要はないものと判断される。

よって、本件申請は理由がないので却下することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 伊藤治)

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